中小企業診断士二次試験事例4(平成29)問1
与件文(問題文)はこちら
第1問(配点 25 点)
(設問 1 )
D社と同業他社のそれぞれの当年度の財務諸表を用いて経営分析を行い比較した場合、D社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ、D社が優れていると思われる財務指標を1つ取り上げ、それぞれについて、名称をa欄に、財務指標の値をb欄に記入せよ。なお、解答にあたっては、①、②の欄にD社の課題を示す指標を記入し、③の欄にD社が優れていると思われる指標を記入すること。また、b 欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、カッコ内に単位を明記すること。
解答上の留意点
(1)D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い比較 ⇒ D社は連結財務諸表…純資産額に注意
(2)D社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ、D社が優れていると思われる財務指標を1つ取り上げ、それぞれについて、名称をa欄に、財務指標の値をb欄に記入
(3)①、②の欄にD社の課題を示す指標を記入し、③の欄にD社が優れていると思われる指標を記入 ⇒ 「財務指標」= 会社の財務状態や業績の良し悪しなどを数字で把握・評価するための指標
(4)小数点第 3 位を四捨五入し、単位を明記
解答の手順
(1)収益性、効率性、安全性の財務指標から、ひとつずつ答えを出す問題が多いので、この3つから選択する。
(2)与件文の中から、悪化、改善している財務指標の見当をつける ⇒ 指標を算出して悪化、改善を確認する
※1. 収益性の財務指標候補を選ぶ ⇒ 「収益性」= 少ない経費で多くの利益を出しているか
(1)損益計算書から、同業他社との差が大きい科目を探す ⇒ 「営業利益」は優れているが、 「売上総利益」や「経常利益」は劣る
(2)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、営業面において、得意先、素材の変化に対応した製品のタイムリーな開発と提案を行い、量・質・効率を加味した安定受注を確保すること…があげられている。」 ⇒ 安定した売上の確保が課題
(3)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、…得意先との交渉による適正料金の設定によって採算を改善すること…があげられている。」 ⇒ 適正原価の確保が課題
(4)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、…生産面においては、生産プロセスの見直し、省エネルギー診断にもとづく設備更新、原材料のVAおよび物流の合理化による加工コスト削減があげられている。」 ⇒ 売上原価の削減が課題
※VA=Value Analysis(バリューアナリシス)の略で、日本語では価値分析
(5) 安定した売上の確保が課題、適正原価の確保が課題、売上原価の削減が課題 ⇒ 売上高総利益率を課題の候補とする
(6)売上高総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100% = 484 ÷ 3810 × 100% = 12.703…% ≒ 12.70%
(7)同業他社= 540 ÷ 2670 × 100% = 20.2247…% ≒ 20.225%
(8)「営業利益率」を候補にしない理由は、「販管費」が優れている理由を与件文から探せないため
※2. 効率性の財務指標候補を選ぶ ⇒ 「効率性」= 少ない資産で多くの売上を出しているか
(1)貸借対照表から、同業他社との差が大きい科目を探す ⇒ 「有形固定資産回転率」、「棚卸資産回転率」、「売上債権回転率」共に同業他社より優れている
(2)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、…生産面においては、生産プロセスの見直し、省エネルギー診断にもとづく設備更新…があげられている。」 ⇒ 設備更新による効率性の向上 ⇒ 有形固定資産回転率が優れている
(3)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「親会社であるD社は織物の染色加工を主たる業務とし、子会社であるD-a社がその仕立て、包装荷造業務、保管業務を行っている。」 ⇒ 棚卸資産はD-a社が管理 ⇒ 棚卸資産回転率が優れている
(4)有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ 有形固定資産 = 3810 ÷ 1969 = 1.934…回 ≒ 1.93回
(5)同業他社= 2670 ÷ 1470 = 1.816…回 ≒ 1.82回
(6)棚卸資産回転率 = 売上高 ÷ 棚卸資産 = 3810 ÷ 166 = 22.951…回 ≒ 22.95回
(7)同業他社= 2670 ÷ 190 = 4.052…回 ≒ 14.05回
(8)棚卸資産回転率の指標差が同業他社より大きいので、棚卸資産回転率を優れた指標の候補とした
※3. 安全性の財務指標候補を選ぶ ⇒ 「安全性」= 支払能力は高いか
(1)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、営業面において、得意先、素材の変化に対応した製品のタイムリーな開発と提案を行い、量・質・効率を加味した安定受注を確保すること…があげられている。」 ⇒ 不安定な売上の課題が資本構造の安全性に影響
(2)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、…得意先との交渉による適正料金の設定によって採算を改善すること…があげられている。」 ⇒ 適正料金確保の課題が資本構造の安全性に影響
(3)与件文から指標の根拠になりそうな文章を拾う ⇒ 与件文の第三段落「現状におけるD社の課題をあげると、…生産面においては、生産プロセスの見直し、省エネルギー診断にもとづく設備更新、原材料のVAおよび物流の合理化による加工コスト削減があげられている。」 ⇒ 売上原価削減の課題が資本構造の安全性に影響
(4) 資本構造の安全性が課題 ⇒ 自己資本比率を課題の候補とする
(5)自己資本比率 = 自己資本(=純資産合計 ー 非支配株主利益) ÷ 負債・純資産合計 = (606 ー 180) ÷ 3049 × 100% = 13.971…% ≒ 13.97%
(6)同業他社= 1201 ÷ 2308 × 100% = 52.036…% ≒ 52.04%
(7)「負債比率」を候補にしない理由は、負債が多い理由は不適正料金等で採算が改善できず内部留保が進まないから
※4. 解答例
(a)欄 ① 自己資本比率 (b)欄 13.97(%)
(a)欄 ② 売上高総利益率 (b)欄 12.70(%)
(a)欄 ③ 棚卸資産回転率 (b)欄 22.95(回)
※自己資本=純資産 ー 非支配株主持分 ー 新株予約権として計算
(設問 2)
D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した場合の特徴を40字以内で述べよ。
解答上の留意点
(1)D 社の財政状態および経営成績について ⇒ 収益性、効率性、安全性の面から
(2)同業他社と比較してD社が優れている点とD社の課題 ⇒ 優れている点と課題を、字数に余裕があれば与件文にある原因を示しながら
(3)40 字以内で述べよ ⇒ 40字を超えることなく、簡潔に記述する
解答の手順
(1)上記(7)で選んだ収益性、効率性、安全性の面から、優れている点と課題を簡潔に記述する
(2)収益性の課題
⇒ 適正価格の確保と売上原価の削減が課題
(3)効率性の課題
⇒ 関連会社の活用で棚卸資産を効率的に活用
(4)安全性の優れている点
⇒ 内部留保に乏しく固定負債固定負債に依存しているため、資本構造の安全性が低い
(5)解答例(60点狙い。模範解答ではない)
解答例:40文字
在庫管理に優れるが、不適正価格とコスト高で収益性と資本構造の安全性が課題である。
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