中小企業診断士二次試験事例4(平成25・解答手順)
手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでD社の業種を確認 ⇒0.5分
1行目冒頭に「D社は創業70年ほどの資本金100百万円、売上高630百万円、従業員数40名の医薬品製剤製造会社」とある。
手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入。解答に影響の与えそうな箇所には青のアンダーラインを引く ⇒3.5分
与件文
①D社は創業70年ほどの資本金100百万円、売上高630百万円、従業員数40名の医薬品製剤製造会社である。配置薬の販売を行っていた創業者が考案した内服薬が市場で高い評価を得たことから、同社が設立された。当初は自社製品群が主力であったが、市場が大きく変化し、現在はジェネリック医薬品や栄養ドリンクなど大手医薬品メーカー製品のOEM生産が主体となっている。
②D社は大手医薬品メーカーの要請に積極的に対応し、生産工程の技術管理、衛生管理や納期の徹底を図るなどして、厚い信頼を得てきた。その過程で、生産ラインの見直しと自動化が進んだ結果、工場スペースが有効に活用できるようになりS、現在は新工場のみで生産が行われ、旧工場は休眠中であるW。
③経営状態は比較的安定しているものの、近年の大手医薬品メーカーによる品質管理のさらなる徹底および価格低減の要請が粗利益の圧迫要因となり、事業の見通しは決して明るいものではないW。このような状況から脱却するために、受け身ではなく「攻め」の経営を志向する必要性を現在の経営者は感じている。その一環として、現在休眠中の旧工場の建屋を活用したアグリビジネス、具体的には新規事業として植物工場の設立を検討している。
④ここで、植物工場とは、「施設内で植物の生育環境光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境および生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設」と定義される(「植物工場の事例集」農林水産省・経済産業省)。
⑤D社では、植物工場の形式を太陽光・人工光併用型とし、水耕栽培でハーブ類や薬草を栽培、出荷することを検討している。また、栽培においては水温・水質の管理、温度・湿度の管理、といった工程管理、品質管理が重要となるが、これらの面では、D社が長年培ってきた生産管理上のノウハウを生かすことが期待されているS。工場で栽培される植物は十分な需要が存在し、一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売されると見込まれている。
⑥なお、D社の現在の貸借対照表は次のとおりである。
手順2:各設問文を読んで、何を答えればいいのかを把握 ⇒1.5分
問1 ➡ 財務比率の問題なのに「出資直後の貸借対照表」がない? ➡ 損益計算書もない!
問2 ➡ 設問1は営業キャッシュフローの問題だが200%定率法? ➡ 設問2は定額法と定率法で合計不一致の理由 ➡ 設問3は資金調達方法別の第5期末現金残高
問3 ➡ 品質基準不適合リスク中生産から納品までの間でリスク関連コストを大きい順に4個説明
手順4:各設問文を読んで、与件文の関連箇所の行番号とキーワードをわかる範囲で書き出し ⇒3分
手順5:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 0.5分
全問難問に見えるので、解答用紙を見て設問順に解くことにした。
第1問(配点 25点)
D社では、植物工場設立にあたり、開業資金150百万円のうち、100百万円の出資を予定している。内訳は、D社の余剰資金から70百万円、金融機関からの長期借入30百万円である。
出資によるD社への影響を評価するために、現在のD社の貸借対照表と、出資直後の予想貸借対照表から財務状況を比較することにした。財務状況を表す主要な財務比率を3つあげ、その財務比率の名称をa欄に、出資直前の数値小数点第3位を四捨五入することをb欄に、出資直後の数値小数点第3位を四捨五入することをc欄に示せ。
また、出資によるD社への影響をd欄に80字以内で述べよ。
手順4、5の実施結果
➡ (a)~(c)は変動する主要な財務比率の名称と数値、(d)は出資の影響
出資の前後で変動する主要な財務比率
➡ 100の出資金は投資資産なので表上では「その他固定資産」? ➡ 余剰資金は「現金及び預金」 ➡ 長期借入は「長期借入金」 ➡ 以上が出資直後に変動する貸借対照表上の金額
➡ 変動する金額に関係する財務指標を探す ➡ (d)長期借入金が増えるので(a)負債比率が悪化 ➡ (b)=430÷525=81.90% ➡ (c)=(430+30)÷525=76.20%
➡ 変動する金額に関係する財務指標を探す ➡ (d)固定資産が増えるので(a)固定比率が悪化 ➡ (b)=385÷525=73.33% ➡ (c)=(385+100)÷525=92.38%
➡ 変動する金額に関係する財務指標を探す ➡ (d)現金預金が減るので(a)当座比率が悪化 ➡ (b)=(300+160)÷200=230.00% ➡ (c)=(300+160-70)÷200=195.00%
解答例
➡︎ (a)負債比率 (b)81.90% (c) 87.62%
➡︎ (a)固定比率 (b)73.33% (c) 92.38%
➡︎ (a)当座比率 (b)230.00% (c) 195.00%
➡︎ (c)安全性が悪化する。具体的には固定資産の獲得を現金預金と長期借入金に頼ったため、短期及び長期の安全性が低下した。(文字数:55)
第2問(配点 45 点)
植物工場は開業資金として、D社から100百万円を受け入れ、工場自身で50百万円を調達する。調達の方法は金融機関から借り入れる金利年4%、年10百万円を各期末に返済か、少人数私募債金利年4%、第5期末に一括返済が検討されている。返済が完了すると同時に、再び同額を借り入れるものとする。
栽培設備設置などに100百万円の投資が必要であり、これらは開業までに投資、建設され、開業第1期首から設備を稼働させる。設備の耐用年数は5年であり、残存価額をゼロとする減価償却を行う。設備は第5期末で同額の投資により更新が必要である。
栽培した植物は一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売が行われるものとする。最大生産能力は売上高に換算して約100百万円/年であるが、軌道に乗るまでの第1期、2期は操業度を落とし、売上高をそれぞれ50百万円、80百万円とし、第3期からは毎期90百万円を予定している。
費用の構成は、変動費が各期売上高の30%、固定費が毎期18百万円と見積もられている。ただし、支払利息と減価償却費は別途計算する。
(設問 1 )
D社が新たに手掛ける植物工場における年間の減価償却費を、①定額法を用いて償却した場合と、②200%定率法(第4期、第5期については未償却残高を均等償却)を用いて償却した場合について(a)欄に示し単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること、それぞれの場合について5年間の営業キャッシュフローの累計額を(b)欄に示せ(単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること)。ただし、自身の資金調達は金融機関からの借り入れとし、取引はすべて現金で行われると仮定する。また、法人税率は40%、欠損金の繰延控除は考慮しないものとする。
手順4、5、6の実施結果
➡ (a)①定額法と②200%定率法での減価償却費を計算、だけ?
➡ (b)①②の営業キャッシュフローの5年累計額の計算
①②の営業キャッシュフローを計算
➡ 取引は全額現金なのですべて算入 ➡ 欠損金の繰延控除は考慮しない=控除しないで処理
➡ 売上金=「売上高をそれぞれ50百万円、80百万円とし、第期からは毎期90百万円を予定」
➡ 「費用の構成は、変動費が各期売上高の30%、固定費が毎期18百万円」欠損金の繰延控除は考慮しない=控除しないで処理 ➡ 「支払利息と減価償却費は別途計算」
➡ 支払利息は「自身の資金調達は金融機関からの借り入れ」➡ 「金融機関から借り入れる金利年4%、年10百万円を各期末に返済」
➡ 減価償却費は「栽培設備設置などに100百万円の投資が必要であり、これらは開業までに投資、建設され、開業第1期首から設備を稼働させる。設備の耐用年数は5年であり、残存価額をゼロとする減価償却」 ➡ ①「定額法」②「200%定率法」それぞれを計算
➡ 計算が多すぎるので見落としを防ぐため表を作成して見える化する
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
売上 | 50 | 80 | 90 | 90 | 90 |
変動費 | 15 | 24 | 27 | 27 | 27 |
固定費 | 18 | 18 | 18 | 18 | 18 |
利息 | 2 | 1.6 | 1.2 | 0.8 | 0.4 |
減価償却費① | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 |
小計① | -5 | 16.4 | 23.8 | 24.2 | 24.6 |
税後小計① | -5 | 9.84 | 14.28 | 14.52 | 14.76 |
減価償却費① | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 |
合計① | 15 | 29.84 | 34.28 | 34.52 | 34.76 |
減価償却費② | 40 | 24 | 14.4 | 10.8 | 10.8 |
小計② | -25 | 12.4 | 29.4 | 33.4 | 33.8 |
税後小計② | -25 | 7.44 | 17.64 | 20.04 | 20.28 |
減価償却費② | 40 | 24 | 14.4 | 10.8 | 10.8 |
合計② | 15 | 31.44 | 32.04 | 30.84 | 31.08 |
解答例
➡ (a)①減価償却費①と減価償却費②を参照
➡ (b)合計①148.4百万円 合計②140.4百万円
(設問 2 )
設問において、(b)欄の計算結果が一致しなかった理由について40字以内で述べよ。
手順4、5、6の実施結果
➡ 設問順に解答する ➡ この時点では題意が見えていないため
合計①②が一致しない理由
➡ ②では初期の減価償却費が①より大きいため、課税負担額も節税効果も①より小さいから。
解答例
➡ ②では第1期の減価償却費が①より大きいため、節税効果は①より小さくなるから。(文字数:38)
(設問 3 )
植物工場自身での資金調達を、金融機関からの借り入れによる場合と少人数私募債による場合とで、第5期末の現金有高を多く残すことができるのは、どちらの調達方法か。調達方法を(a)欄に、金額を(b)欄に示せ(単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること)。また、その理由を(c)欄に30字以内で述べよ。ただし、減価償却は定額法で行い、取引はすべて現金で行われると仮定する。また、法人税率は40%、欠損金の繰延控除は考慮しないものとする。
手順4、5、6の実施結果
➡ 設問順に解答する ➡ 直感的には元金を分割払いにする金融機関からの借入だと当たりをつける
調達別に金額を計算
➡ 「植物工場は開業資金として、D社から100百万円を受け入れ、工場自身で50百万円を調達する。調達の方法は金融機関から借り入れる金利年4%、年10百万円を各期末に返済か、少人数私募債金利年4%、第5期末に一括返済が検討されている。返済が完了すると同時に、再び同額を借り入れるものとする」➡ 5年後に再度50百万の調達あり ➡ 特に記述が無いので、初回の調達は第0期末とした
➡ 「栽培設備設置などに100百万円の投資が必要であり、これらは開業までに投資、建設され、開業第1期首から設備を稼働させる。設備の耐用年数は5年であり、残存価額をゼロとする減価償却を行う。設備は第5期末で同額の投資により更新が必要である。」➡ 5年後に再度100百万円の投資あり ➡ 特に記述が無いので、初回の投資は第0期首より前とした
➡ 借入の場合の営業キャッシュフローは設問1の(b)で148.4と出ているので私募債だけ計算する ➡ 「減価償却は定額法で行い、取引はすべて現金で行われると仮定」➡ 支払利子が毎期2百万円である点が借入の場合と異なる ➡ 第1期:15+第2期:29.6+第3期:33.8+第4期:33.8+第5期:33.8=146
➡ 上記を暗算で処理できないので見落としを防ぐため表を作成して見える化した
Cash Inflow=CIF Cash Outflow=COF | 開業以前≦0期 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
売上CIF(借入)① 148.4 | 15 | 29.84 | 34.28 | 34.52 | 34.76 | |
売上CIF(私募債)② 146 | 15 | 29.6 | 33.8 | 33.8 | 33.8 | |
投資CIF(D社の出資金)①② ➡ 施設建設 | 100-100 | 0 | 0 | 0 | 0 | -100 |
財務CIF(工場の借入)①② | 50 | 0 | 0 | 0 | 0 | 50 |
財務COF(借入金の返済)① | -10 | -10 | -10 | -10 | -10 | |
財務COF(借入金の返済)② | 0 | 0 | 0 | 0 | -50 | |
CF各期発生高計① | 5 | 19.84 | 24.28 | 24.52 | -25.24 | |
現金有高=①の各期末残高 | 50 | 55 | 74.84 | 99.12 | 123.64 | 98.4 |
CF計各期発生高② | 15 | 29.6 | 33.8 | 33.8 | -66.2 | |
現金有高=②の各期末残高 | 50 | 65 | 94.6 | 128.4 | 162.2 | 96 |
解答例
➡ 毎期の元金返済で支払利子が減少する分現金が多く残るから。(文字数:28)
第3問(配点 30 点)
植物工場で栽培した植物は一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売されると見込まれているが、前提とされる品質基準に適合しないものが生産されるリスクがある。植物工場において生産計画から納品までのそれぞれのプロセスの中で、考慮すべきリスクに関連するコストを大きい順に4つ、90字以内で述べよ。
手順4、5、6の実施結果
➡ 「植物工場において生産計画から納品までのそれぞれのプロセスの中で、考慮すべきリスクに関連するコストを大きい順に4つ」 ➡ リスクは「前提とされる品質基準に適合しないものが生産されるリスク」 ➡ 事例3(運営管理)の問題か?
生産計画~納品間にあるコストの大きいリスク4つの洗い出し
➡ 問題文⑤段落には「植物工場の形式を太陽光・人工光併用型とし、水耕栽培でハーブ類や薬草を栽培、出荷することを検討している。また、栽培においては水温・水質の管理、温度・湿度の管理、といった工程管理、品質管理が重要となる」との記述がある。それから考えると、品質基準を満たしていない生産品が見つかった場合には納品後の全品回収が最もコスト大。次に全品出荷できない場合、全品検査のやり直し。原因解明と再発防止策コストの順かな?
➡ 品質原価を問う問題らしいが、概念を知らないのでスマートな解答は望めない問題でした。 ➡ 外部失敗原価 > 内部失敗原価 > 評価原価 > 予防原価 の順になるらしい
解答例
➡ 全品回収等出荷後に発生するコストが最も大きい。2番目は全品出荷できない場合に要するコスト、3番目は全品検査などに要するコスト、4番目は再発防止コストである。 (文字数:78)
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