中小企業診断士二次試験事例4(平成26・解答手順)
手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでD社の業種を確認 ⇒0.5分
1行目冒頭に「D社は創業が1950年代で、資本金2,000万円、正規従業員45名、売上高10億円の、県内に18店舗をチェーン展開する老舗喫茶店」とある。
手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入。解答に影響の与えそうな箇所には青のアンダーラインを引く ⇒3.5分
与件文
①D社は創業が1950年代で、資本金2,000万円、正規従業員45名、売上高10億円の、県内に18店舗をチェーン展開する老舗喫茶店である。1960年代に現在の会長が考案した軽食メニュー、デザート類が人気を博し、現在の多店舗展開の礎を築いた。同時期にセントラルキッチン方式を導入し、自社工場を保有している。全国チェーンの企業が続々と県内に進出しているが、古くからの顧客を中心にD社の味を求めるファンは多く、県内での知名度は高いS。
②店舗の多くは県内の主要な駅前、商店街の物件に出店するスタイルを続けてきた。これら古くからの店舗のいくつかは店舗面積も狭く、地方都市の中心市街地の衰退にも重なり、客足が落ちてきているのが悩みであるW。その一方で、近年はオフィス街のテナントや郊外のロードサイド店舗を実験的に開店し、成功を収めているS。
③しかし、外食産業を取り巻く環境は、原油価格高騰によるエネルギーコストの上昇や、消費税増税等の影響、少子高齢化による市場規模の縮小やコンビニエンスストアとの競争激化による売上高減少のリスクにさらされているT。以前、原価低減を目的にコーヒー豆の現地買い付けを試みたものの、為替差損を出したことがあり、ここ数年は専門の商社から原料を購入しているが、現地買い付けを再開しようと現社長は考えている。
④そのような状況下において、最近、インターネットのブログなどでD社の軽食メニューやデザートのいくつかが地元のB級グルメとして注目を集めるようになり、その後メディアで取り上げられる事例が増えてきた。これを好機ととらえ、現社長が中心となり、工場の一部のラインを利用してお土産として商品化することに成功した。現在、軽食種、デザート種の商品が人気で、駅の土産物店や、道の駅、高速道路のパーキングエリア、サービスエリアのお土産物コーナーで取り扱われるようになり、収益の柱の1つとして見込んでいるO。しかし、工場の生産能力にも限界があり、需要に合わせた商品群の整理も必要な時期に来ているWと現社長は考えている。
⑤お土産としての商品化は収益の柱として期待されているだけではなく、県外客へのD社の認知度を高め、実際の店舗での飲食につなげたいと考えている。こうした新しい顧客創出のため、先に述べたロードサイド店舗の拡充や既存店の時代に合わせた改装など、新しい出店形態を模索している。
⑥D社および同業他社の平成25年度平成25年4月1日〜平成26年3月31日の貸借対照表、損益計算書は、以下のとおりである。
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![](https://ufuso.org/wp-content/uploads/2023/08/スクリーンショット-2023-08-23-074738.png)
手順2:各設問文を読んで、何を答えればいいのかを把握 ⇒1.5分
問1 ➡ 経営分析の問題
問2 ➡ 投資時期決定の問題
問3 ➡ セールスミックスの問題?
問4 ➡ 為替のリスクヘッジ問題?
手順4:各設問文を読んで、与件文の関連箇所の行番号とキーワードをわかる範囲で書き出し ⇒3分
手順5:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 0.5分
全問難問に見えるので、解答用紙を見て設問順に解くことにした。
第1問(配点 24点)
D社の貸借対照表、損益計算書と同業他社の貸借対照表、損益計算書を比較して、D社が優れていると判断できる財務指標を1つ、財務上の課題となる財務指標を2つ、名称(a)とその数値(b)(単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること)を示し、そこから読み取れるD社の財政状態および経営成績(c)についてそれぞれ30字以内で述べよ。
なお、優れている指標については①の欄に、課題となる指標については②、③の欄に、それぞれ記入すること。
手順4、5の実施結果
➡ 「財政状態および経営成績」(c)
優出資の前後で変動する主要な財務比率
➡ 売上高はD社を1とすると同業他社は1.5 ➡ これで各数値を1.5を上回るか下回るかで比較する ➡ 優れているのは売上原価 ➡ 与件文①「セントラルキッチン方式を導入し、自社工場を保有」で理由を確認できる ➡ 売上高も与件文②「古くからの顧客を中心にD社の味を求めるファンは多く、県内での知名度は高い」から一定水準の売上を維持していると推測される ➡ 売上高総利益率を優れた指標に選ぶ
➡ 上と同じ方法で劣った指標を探す ➡ 与件文②「店舗の多くは県内の主要な駅前、商店街の物件に出店するスタイルを続けてきた。これら古くからの店舗のいくつかは店舗面積も狭く、地方都市の中心市街地の衰退にも重なり、客足が落ちてきている」から有形固定資産回転率が劣るのを確認 ➡ 与件文売上高も与件文④「工場の生産能力にも限界があり、需要に合わせた商品群の整理も必要な時期に来ている」から生産効率の向上による経費削減と売上増を図る時期にあることがわかる。過大な長短借入金が資金繰りを圧迫 ➡ 流動比率、自己資本比率(負債比率)が劣るのを確認 ➡ 利益の減少が内部留保資金を減少させ(自己資本比率の悪化)、短期の借入でしのぎ新規展開に長期借入金で膨らんだ結果(負債比率の悪化)、最終的に資金繰りが立ちいかない状態(流動比率の悪化)という最悪な状態にまで追い込まれているので、ここでは流動比率の改善が最優先課題と考える
解答例
➡︎① (a)売上高総利益率 (b)72.00% (c)生産効率の向上で生産原価を抑え、堅調な収益を維持している。(文字数:29)
➡︎② (a)有形固定資産回転率 (b)1.11回 (c)出店市街地の衰退で売上が減少し、効率性が落ちている。(文字数:26)
➡︎③ (a)流動比率 (b)50.00% (c) 資金繰りの悪化を長短の借入金で賄い、短期安全性が危機的状況。(文字数:30)
第2問(配点 30 点)
D社のある店舗の平成26年度における予想損益計算書は以下のとおりである。売上原価は売上高に比例している。設備備品の償却は定額法(取得原価1,000万円、残存価額ゼロ、耐用年数5年)で行われており、平成27年度期末で償却が終了し、改装のため取り替える予定である。しかし、この店舗の最寄駅では、平成27年4月1日の完成に向けて再開発が進んでおり、これに合わせて改装を早める提案がある。
![](https://ufuso.org/wp-content/uploads/2023/08/スクリーンショット-2023-08-23-074757.png)
改装する場合、再開発イメージに合わせた改装やインターネット環境などの充実のため、1,500万円の設備投資額が見込まれている。設備投資は期間5年の定額法(残存価額ゼロ)で償却される予定である。改装した場合は、販売費・一般管理費のうちその他経費が、平成26年度よりも10%増加すると見込まれている。
平成26年度期末に改装した場合、駅前の再開発との相乗効果により今後5年間の売上は平成26年度よりも10%増加すると見込まれている。一方、改装を平成27年度期末に行う場合、相乗効果が得られないため、平成27年度の売上は平成26年度より5%増加し、平成28年度以降の4年間は平成26年度より10%の増加が見込まれている。
なお、再開発に合わせた改装を行う場合、現在の設備備品は平成26年度期末の帳簿価額で翌年度期首に除却されるものとする。下記の設問に答えよ。
(設問 1 )
平成26年度期末に改装した場合(a)と、平成27年度期末に改装した場合(b)について、それぞれの平成27年度の予想税引後キャッシュフローを求めよ。ただし、運転資本の増減はなく、法人税率は40%とする。
手順4、5、6の実施結果
➡ CFを求める問題
(a)(b)のCFを3計算
➡ 「売上原価は売上高に比例」
➡ 「設備備品の償却は定額法(取得原価1,000万円、残存価額ゼロ、耐用年数5年)で行われており、平成27年度期末で償却が終了し、改装のため取り替える予定」➡ 減価償却費1000÷5=200
➡ 「改装する場合、再開発イメージに合わせた改装やインターネット環境などの充実のため、1,500万円の設備投資額が見込まれている。設備投資は期間5年の定額法(残存価額ゼロ)で償却される予定である。改装した場合は、販売費・一般管理費のうちその他経費が、平成26年度よりも10%増加」➡ 減価償却費1500÷5=300
➡(a)「平成26年度期末に改装した場合、駅前の再開発との相乗効果により今後5年間の売上は平成26年度よりも10%増加。」
➡(a)「再開発に合わせた改装を行う場合、現在の設備備品は平成26年度期末の帳簿価額で翌年度期首に除却」
(a)(単位:万円) | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
投資 | -1500 | |||||
売上(42000×1.1=46200) | 4620 | 4620 | 4620 | 4620 | 4620 | |
売上原価 | 1155 | 1155 | 1155 | 1155 | 1155 | |
販管費(その他経費650の増含) | 3165 | 3165 | 3165 | 3165 | 3165 | |
2期から新旧減価償却費の差額分(300-200) | 300 | 100 | 100 | 100 | 100 | |
営業利益 | 0 | 200 | 200 | 200 | 200 | |
税引後絵営業利益 税率0.4 | 0 | 120 | 120 | 120 | 120 | |
減価償却費 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | |
除却損(H27の除却は販管費中の減価償却費で代用) | 200 | |||||
CF | 500 | 420 | 420 | 420 | 420 |
➡(b)「改装を平成27年度期末に行う場合、相乗効果が得られないため、平成27年度の売上は平成26年度より5%増加し、平成28年度以降の4年間は平成26年度より10%の増加」
(a)(単位:万円) | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
投資 | -1500 | |||||
売上(H27=42000×1.05 H28~=46200) | 4200 | 4410 | 4620 | 4620 | 4620 | 4620 |
売上原価 | 1050 | 1102.5 | 1155 | 1155 | 1155 | 1155 |
販管費(その他経費650の増含) | 3100 | 3100 | 3165 | 3165 | 3165 | 3165 |
2期から新旧減価償却費の差額分(300-200) | 0 | 100 | 100 | 100 | 100 | |
営業利益 | 50 | 207.5 | 200 | 200 | 200 | 200 |
税引後絵営業利益 税率0.4 | 20 | 124.5 | 120 | 120 | 120 | 120 |
減価償却費 | 200 | 200 | 300 | 300 | 300 | 300 |
CF | 220 | 324.5 | 420 | 420 | 420 | 420 |
解答例
➡ (a)500万円 (b)324.5万円
(設問 2 )
平成27年度から平成31年度までの年間における予想税引後キャッシュフローの正味現在価値を計算し、駅前の再開発完成に合わせて平成26年度期末に改装するか、予定どおり平成27年度期末の償却が終わるのを待ち平成27年度期末に改装するかを判断せよ。ただし、運転資本の増減はなく、法人税率は40%、資本コストは5%とする(計算には以下に示す現価係数を用いよ)。
![](https://ufuso.org/wp-content/uploads/2023/08/スクリーンショット-2023-08-23-074816.png)
手順4、5、6の実施結果
➡ 設問2のCFの現在価値を計算
CFの現在価値を計算
➡ (a)=500×0.95+420×(0.91+0.86+0.82+0.783)-1500=390.4 (b)=324.5×0.95+420×(0.91+0.86+0.82+0.783)-1500×0.95=298.675
解答例
➡ 省略
手順4、5、6の実施結果
第3問(配点 30 点)
D社のセントラルキッチン部門における、人気商品X、Y、Zのロット単位当たり原価情報等は以下の資料のとおりである。生産はロット単位で行われている。生産したものはすべて販売可能であり、期首・期末の仕掛品などはないものとする。下記の設問に答えよ。
![](https://ufuso.org/wp-content/uploads/2023/08/スクリーンショット-2023-08-23-074829.png)
(設問 1 )
現状におけるX、Y、Zそれぞれの限界利益率を求めよ(単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること)。
手順4、5、6の実施結果
➡ 限界利益率=(売上-変動費)÷売上=(販売単価-変動費)÷販売単価 ➡ X=(5300-1500)÷5300×100%=71.698% ➡ Y=(5000-1400)÷5000×100%=72.00% ➡ Z=(5500-1650)÷5500×100%=70.00% ➡ ひっかけ問題か?
解答例
➡ X=71.70% Y=72.00% Z=70.00%
(設問 2 )
平成27年度の需要予測がX、Y、Zの順で、10,000、8,000、4,000それぞれロット数と予想されている。平成27年度の工場における最大直接作業時間が年間9,600時間とした時、営業利益を最大化するX、Y、Zの生産量の構成比と、その求め方を述べよ。
手順4、5、6の実施結果
➡ 9600時間で得られる最大営業利益のXYZの生産量構成比 ➡ 時間当たりの単価が必要
XYZの営業利益を計算
➡ XYZ時間当たりの限界利益単価=限界利益単価÷所要時間 ➡ X=(5300-1500)÷0.4時間=9500 ➡ Y=3600÷0.6=6000 ➡ Z=3850÷0.5=7700 ➡ 限界利益の大きさはXZYの順なので、9600時間をこの順序で割り当てると、X=10000ロット×0.4時間=4000時間 ➡ Z=4000×0.5=2000 ➡ Y=8000×0.6=4800 と 9600-4000-2000=3600の小さい方になる ➡ X=4000時間 Z=2000 Y=3600
➡ XYZ限界利益総額=限界利益単価/時間 ➡ X=9500×4000=38000000 ➡ Z=7700×2000=15400000 Y=6000×3600=21600000
➡ XYZの貢献利益=売上高-個別固定費 ➡ X=38000000-18000000=20000000 ➡ Z=15400000-17000000=▲1600000 Y=21600000-17000000=4600000 ➡ Zは貢献利益が赤字なので生産しない ➡ X=10000ロット Y=8000ロット Z=0ロットを生産する ➡ 最大直接作業時間も、需要予測内で積算すると9600時間ではなくX4000時間+Y4800時間+Z0時間=8800時間になる
解答例
➡ X:Y:Z=10000:8000:0
(設問 3 )
設問の条件に加えて、商品XとZに販売促進費として、それぞれ50万円を追加すると、平成27年度の需要はXがさらに10%増加、Zが25%増加するとの予測に基づく提案がある。この提案を受け入れた場合の最適なX、Y、Zの生産量の構成比を求め(a)、この提案に対する意見を述べよ(b)。
手順4、5、6の実施結果
➡ 設問順に解答しないとできないので関係設問次第ではパス
XYZの営業利益を計算
➡ 需要の変化がX=10000×1.1=11000 ➡ Y=8000で変化なし ➡ Z=4000×1.25=5000
➡ 9600時間をXZYに割り当てると、X=11000ロット×0.4時間=4400時間 ➡ Z=5000×0.5=2500 ➡ Y=8000×0.6=4800
➡ XYZ限界利益総額=限界利益単価/時間 ➡ X=9500×4400=41800000 ➡ Z=7700×2500=19250000 Y=6000×4800=28800000 ➡ Z=7700×400(=9600-4400-4800)=3080000
➡ 「商品XとZに販売促進費として、それぞれ50万円を追加」➡ 個別固定費の変化がX=18000000+500000=18500000 ➡ Y=17000000で変化なし ➡ Z=17000000+500000=17500000
➡ XYZの貢献利益=売上高-個別固定費 ➡ X=41800000-18500000=23300000 ➡ Z=3080000-17500000=▲144200000 Y=28800000-17000000=11800000 ➡ 貢献利益はXYZの順だが、Zno貢献利益はマイナスなので ➡ X=11000ロット Y=8000ロット Z=0ロットを生産する( ➡ 最大直接作業時間も、需要予測内で積算すると9600時間ではなくX4400時間+Y4800時間+Z0時間=9200時間になる)
解答例
➡ (a)X:Y:Z=11000:8000:0 (b)XYZの生産構成比を(a)にすると提案の貢献利益合計が設問2の貢献利益合計より大きくなるので、この提案を受け入れるべき。
第4問(配点 16 点)
D社では、再度、コーヒー豆を直接買い付ける可能性を探ることにした。しかし、以前のような為替差損を計上する恐れがあるため、この為替リスクを軽減する手段の検討に入った。為替リスクを軽減する手段を2つ挙げ(a)、それぞれの手段を用いた際、円安になった場合と、円高になった場合の影響(メリット・デメリット)(b)について述べよ。
手順4、5、6の実施結果
➡ 為替予約?為替オプション?オプション契約? ➡ 知識不足
為替差損軽減対策
➡ 為替予約=将来購入又は売却する外国通貨を予め決めた為替レートで購入又は売却する契約 ➡ 購入の場合、予約レートより円高になると少ない円で多くの外貨を購入し、現在レートで外貨を売却すれば購入に要した円よりも多くの円(為替差益)を得ることができるというメリットを失うが、円安では逆に為替差損のデメリットを予約レートまでに低減できる
➡ オプション取引=オプションとは特定の金融商品(原資産)をある期日(満期日)までにあらかじめ決められた価格(権利行使価格)で買う、または売る権利のことをいい、この権利自体を売買することがオプション取引 ➡ 買う権利のことをコール・オプション、売る権利のことをプット・オプション
➡ コール・オプションの買いでは、為替予約の為替差損をオプション料を支払うことで回避できる ➡ 具体的には買う権利を行使しない(放棄)することで為替差損の発生を防ぐ
解答例
➡① (a)為替予約 (b)円安の場合は発生する為替差損を回避できるメリットがある。円高の場合は、為替差益を享受できない。
➡① (a)コールオプションの買い (b)円安の場合は権利を行使して為替差損を回避できるメリットがある。円高の場合は、権利を放棄して為替差損を回避することができる。ただし、どちらの場合もオプション料の負担が生じる。
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