中小企業診断士二次試験事例4(平成24・解答手順)

手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでD社の業種を確認 ⇒0.5分

1行目冒頭に「D 旅館は大都市圏からのお客も多い温泉地に立つ、創業 85 年の小〜中規模旅館」とある。

手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入。解答に影響の与えそうな箇所には青のアンダーラインを引く ⇒3.5分

与件文

D 旅館は大都市圏からのお客も多い温泉地に立つ、創業 85 年の小〜中規模旅館である。この地は、秋の紅葉シーズンが人気で、毎年この時期、多くの観光客が訪れることで知られているO。D 旅館は木造の旧館と 20 年前に新築した新館の 2 棟からなり、客室数は 25 室(旧館 8 室、新館 17 室)、収容人数 125 名(旧館 30 名、新館 95 名)である。客室のほか、大広間 2、内湯 2、露天風呂 1、貸し切り可能な家族風呂などを有している。スタッフは 3 代目であるオーナー夫妻、正社員 19 名、常勤のパート13 名の計 34 名で構成されている。D 旅館の人気の 1 つは各室に担当が 1 名付き、細やかなサービスを提供することにあるS。また、部屋出しの食事は、地元の食材を用いた創作料理が評判を集めているS

宿泊客の大半が旅行代理店またはインターネットからの予約である。年間宿泊者数は毎年 18,000 名を超える水準で推移してきたが、近年、周辺旅館では施設のリニューアルがみられ、その影響もあり、稼働率は低下し、昨年度は年間宿泊者数が17,000 名、今年度は 16,500 名と減少し、2 年連続で赤字を記録したW

宿泊者数減少の原因については様々な理由が考えられるが、最大の理由としては、老朽化した旧館に問題がある、とオーナー夫妻は分析している。旧館は収容人数も少なく、設備も古いため、新館に比べて稼働率が低いW。そこで、旧館での営業を取りやめ、新館のみでの営業に切り替えるか、旧館を改修することが検討されている。

この問題と並行して、オーナー夫妻には子供がなく、後継者並びに事業承継問題が悩みの種であるW。これらの課題に関しても、オーナー夫妻から中小企業診断士に対しアドバイスが求められている。D 旅館の今年度の財務諸表は次のとおりである。

手順2:各設問文を読んで、何を答えればいいのかを把握 ⇒1.5分

問1 ➡ 設問1予想損益計算書の作成 ➡ 設問2収益性の改善分析 ➡ 設問3投資評価 ➡ 難易度不明

問2 ➡ 設問1損益分岐点比率 ➡ 設問2目標損益分岐点比率を達成する固定費 ➡ 難易度 中(私見)

問3 ➡ 設問1割引きキャッシュフローを用いた企業価値の算出 ➡ 設問2目事業承継の相手先選定と留意点 ➡ 難易度 難(私見)

手順4:各設問文を読んで、与件文の関連箇所の行番号とキーワードをわかる範囲で書き出し ⇒3分

手順5:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 0.5

問1が全設問に関連性しそうだが現時点では不明。設問の難易度は知識不足で判断できず。よって解答は順序よく行うことにした。

第1問(配点 40点)

オーナー夫妻から、旧館の改修後の財務内容の変化について意見を求められた。老朽化した旧館の改修は、大浴場の改修、客室専用の露天風呂を新たに設置することを含めた客室の改修などが中心であり、これにより、周辺旅館との競争力が回復できると考えられている。この改修には 180,000 千円の支出が見積もられている。このうち、50,000 千円は手持ちの預金でまかない、残額は金融機関から現在と同じ金利で借り入れることとする。減価償却については定額法により 10 年(10 年後の残存価額はゼロとする)で償却する予定である。
改修工事の結果として、客単価は 23,000 円となり、年間宿泊者数が初年度は17,000 名、2 年目以降は 18,000 名まで回復するとオーナー夫妻は予想している。ただし、上記の改修に伴い、年間の設備保守点検・修繕費は今年度より 20 % 増加、水道光熱費、広告宣伝費はそれぞれ今年度より 10 % 増加することが見込まれている。


(設問 1 )
改修工事の結果として、初年度(a)、2 年目(b)の年間宿泊者数がオーナー夫妻の予想通りに回復した場合の予想損益計算書を作成せよ(単位:千円)。なお、この期間、営業外収益は発生しないものとする。

手順4、5の実施結果

➡ 作成条件の見落としに注意して売上高以下を計算

貸借対照表及び損益計算書の分析

➡ 売上高=売上単価×数量=平均客単価×年間宿泊者数=23000×17000=391000千円(a)➡ 23000×18000=414000千円(b)

➡ 売上原価=原価単価×数量 ➡ 原価単価不明 ➡ 全額変動費なので aの売上原価÷現売上原価=(a)の年間宿泊者数÷現年間宿泊者数=(a)÷92400=17000÷16500 ➡(a)≒95200千円 ➡(b)÷92400=18000÷16500 ➡ (b)≒100800

※簿記2級では、変動費を「生産量や販売量に応じて変動する費用」と定義するので、売上高の比率で算出するのは危険だと感じるべきだったが… ➡ 見事に間違えた(計算すると変動比率は同率ではなかった)

➡ (a)の販売費及び一般管理費=変動費リネン・消耗品費分9075×17000÷16500=9350 ➡ 販売手数料(コミッション)=売上高391000×コミッション率34815÷330000=41250.5 ➡ 現固定費207200+水道光熱費10%増4000+広告宣伝費10%増650+設備保守点検・修繕費20%増2000+減価償却費増18000(=180000÷10)=231850

 ➡ 9350+41250.5+231850=282450.5

➡(b)の販売費及び一般管理費=変動費リネン・消耗品費分9350×18000÷17000=9900 ➡ 販売手数料(コミッション)=売上高414000×コミッション率34815÷330000=43677 ➡ 現固定費207200+水道光熱費10%増4000+広告宣伝費10%増650+設備保守点検・修繕費20%増2000+減価償却費増18000(=180000÷10)=231850

 ➡ 9900+43677+231850=285427

➡ 販売手数料はコミッション率で算出

➡ 営業外費用19160+新規借入金130000×4%=19160+5200=24360千円(a)(b)同額

解答例

➡︎ 売上高        (a)391000      (b) 414000

➡︎ 売上原価       (a)95200      (b) 100800

➡︎ 売上総利益      (a)295800      (b)313200

➡︎ 販売費・一般管理費  (a)282450.5     (b)285427

➡︎ 営業利益       (a)282450.5     (b)285427

➡︎ 営業外費用      (a) 24360       (b)24360

➡︎ 経常利益       (a)-11010.5     (b)3413


(設問 2 )
改修工事の結果として年間宿泊者数が 18,000 名に回復した場合に、今年度よりも収益性が改善したか否かを判定するのに最もふさわしいと考えられる財務指標の名称を(a)欄に 3 つあげ、その数値を計算(小数点第 3 位を四捨五入すること)して(b)欄に示せ。なお、貸借対照表は次に示されたものを使用すること。

手順4、5の実施結果

客数が18000名まで回復した場合との比較なので、2年目と現年との比較になる

貸借対照表及と損益計算書から今年度より収益性が改善した指標を探す(単位:千円)

 売上高が330000から414000に25.45%増加 ➡ 売上原価は92400から100800に9.09%の増加に圧縮 ➡ 売上総利益率=313200÷414000×100%=75.65%(今年度72.00%)

 販管費も人件費を据え置いたことで251090から285427と13.68%の増加に抑えた ➡ 売上営業利益率=27773÷414000×100%=6.71%(今年度-4.06%)

 客数も16500人から18000人と9.09%に増加し、施設も改修しているので宿泊率もアップ? ➡ 有形固定資産回転率=414000÷597900=0.69回(今年度0.65回)

解答例

➡︎ (a)売上高総利益率   (b)75.65%

➡︎ (a)売上高営業利益率  (b) 6.71%

➡︎ (a)有形固定資産回転率 (b) 0.69回


(設問 3 )
この施設改修に関して、正味現在価値法を用いてこの投資案を評価せよ(計算過程も明示すること)。ただし、2 年目以降、10 年目まで年間宿泊者数は 18,000 名で推移すると見込まれている。また、税率 40 %、割引率 6 % とする。計算には下記の年金現価係数表を用いよ。なお、運転資本の増減はないと仮定する。

手順4、5の実施結果

 正味現在価値法?勉強不足 ➡ 正味現在価値は、将来得られるフリーキャッシュフロー(FCF)の現在価値の合計 ➡ 営業利益×(1-実効税率)+減価償却費±運転資金の増減-設備投資額

正味現在価値の算出

 初年度のFCF ➡ 営業利益×(1-実効税率)+減価償却費±運転資金の増減-設備投資額 ➡ 設問3に「運転資金の増減はない」とあるので、計算過程では省略する

 初年度、2年度のFCFは常に現年度との差額である ➡ 投資案と現状維持の比較だから 

➡ 初年度FCF=営業利益(13349.5-(-13490))×(1-実効税率)+減価償却費(43400-25400=18000)±運転資金の増減0-設備投資額0 ➡ 26839.5×0.6+18000=34103.7

➡ 2年度以降のFCF=営業利益(27773-(-13490))×(1-実効税率)+減価償却費(43400-25400=18000)±運転資金の増減0-設備投資額0 ➡ 41263×0.6+18000=42757.8

➡ 正味現在価値=34103.7×0.94342757.8×(7.360-0.943)-180000≒126536.591…≒126536.59…

解答例

➡ 初年度FCF=営業利益(13349.5-(-13490))×(1-実効税率)+減価償却費(43400-25400=18000)±運転資金の増減0-設備投資額0 ➡ 26839.5×0.6+18000=34103.7

➡ 2年度以降のFCF=営業利益(27773-(-13490))×(1-実効税率)+減価償却費(43400-25400=18000)±運転資金の増減0-設備投資額0 ➡ 41263×0.6+18000=42757.8

➡ 正味現在価値=34103.7×0.943+42757.8×(7.360-0.943)-180000≒126536.591…≒126536.59…

第2問(配点 30 点)

旧館の改修とは別の改善策として、旧館を閉鎖し、新館のみで営業した場合の収益性について、オーナー夫妻から意見を求められた。この改善策を実施した場合、客単価は変化しないものの、年間宿泊客数は 15,000 名に減少することが予想されている。これにより、人件費、減価償却費を除く固定費は今年度より 30 % 減少する。

(設問 1 )
この改善策を実施した場合の損益分岐点比率を求めよ(計算過程も明示すること)。なお、ここでは、営業利益をゼロとする売上高を損益分岐点とする。計算にあたっては、千円未満を四捨五入せよ。

手順4、5、6の実施結果

➡ 損益分岐点比率 ➡ 売上高ではなく営業ベースの比率を求める

損益分岐点比率の算出

➡ 売上高=客単価20000円×客数15000名=330000×15000名÷16500名≒300000 ➡ 客単価が同額なので客数の現行比で求められる

➡ 変動費=(92400+9075+34815)×15000名÷16500名=123900 

➡ 固定費=(207200-119300-25400)×0.7+119300+25400=188450

➡ 損益分岐点売上高=固定費188450÷{限界利益176100(=売上高300000-変動費123900)÷売上高300000}=188450÷(176100÷300000)≒321039

➡ 損益分岐点比率=損益分岐点売上高321039÷売上高300000≒107.01%

解答例

➡︎ 売上高=20000円×15000人=300000千円

➡︎ 変動費=(92400千円+43890千円)×15000人÷16500人=123900千円

➡ 固定費=(207200千円-119300千円-25400千円)×0.7+119300千円+25400千円=188450千円

➡ 損益分岐点売上高=188450千円÷{(300000千円-123900千円)÷300000千円}≒321039千円

➡ 損益分岐点比率=321039千円÷300000千円×100%=107.013%

(設問 2 )
この改善策を実施した後、損益分岐点比率 90 % を目標としたい、とオーナー夫妻からの要望があった。この要望に固定費の削減で応える場合、その削減額を求めよ(計算過程も明示すること。単位:千円)。

損益分岐点比率の算出

➡ 損益分岐点売上高=300000×0.9=270000 ➡ 限界利益比率に変化はないので、固定費Y=270000×0587=158490 ➡ 188450-158490=29960

解答例

➡ 損益分岐点売上高=300000千円×0.9=270000千円

➡ 固定費=270000千円×限界利益率0.587=158490千円

➡ 削減する固定費=188450千円-158490千円=29960千円

第3問(配点 30 点)

前述したように、オーナー夫妻には後継者がなく、親族にも経営を任せられる人材が見当たらないという。場合によっては、旅館の売却を伴う事業承継も視野に入れているといい、今年度の状況を前提とした具体的なケースについて説明を求められた。

(設問 1 )
承継先にかかわらず、売却価格の算定に際しては、客観的な数値が必要となる。そこで、今年度の財務諸表をもとに企業価値を求めることになった。割引キャッシュフロー法を用いて、企業価値を求めよ(計算過程も明示すること。単位:千円、千円未満は四捨五入すること)。
ただし、算定にあたっては、オーナー夫妻に対する給与 16,000 千円は不要となることが分かっている。また、今後の株主資本コストを 5 %、平均的な負債資本コストを 4 %、税率は 40 %、キャッシュフローは今年度の水準が将来にわたって継続するものと仮定する。

手順4、5、6の実施結果

➡ 割引キャッシュフローを用いた企業価値の把握 ➡ 今年度の財務諸表を使用 ➡ WACCも使用?

企業価値の算出

➡オーナー負債の給与16000千円を算入しないので、営業利益は-13490千円+16000千円=2510千円

➡FCF=営業利益2510千円×(1-0.4)+25400=26906千円 ➡ FCFをWACCで割引く

➡WACC=資本114575千円÷負債・純資産合計572875千円×株主資本コスト5%+負債458300千円÷572875千円×(1-0.4)×4%=1%+1.92%=2.92%

➡企業価値=26906千円÷0.0292≒921438千円

解答例

➡オーナー負債の給与16000千円を算入しないので、営業利益は-13490千円+16000千円=2510千円

➡FCF=営業利益2510千円×(1-0.4)+25400=26906千円

➡WACC=資本114575千円÷負債・純資産合計572875千円×株主資本コスト5%+負債458300千円÷572875千円×(1-0.4)×4%=1%+1.92%=2.92%

➡企業価値=26906千円÷0.0292≒921438千円

(設問 2 )
事業承継を考える際、承継先としてどのような相手が考えられるか。また、その際の留意点について中小企業診断士の立場から 200 字以内で説明せよ。

手順4、5、6の実施結果

➡事業承継先の相手方像 ➡ D社強みの活用 ➡ 温泉地との相乗効果 ➡ 集客力 

➡留意点 ➡ 赤字経営 ➡ 自力再建困難 ➡ 

相手方・留意点

➡事業承継先の相手方像 ➡ D社強みの活用 ➡ 地元観光産業との相乗効果 ➡ 内部人材への承継、地元の同業他社等 

➡留意点 ➡ 赤字経営なので投機的承継は困難 ➡ 再建的承継を円滑に進めるために、簿外債務等も含めた企業価値の精査 ➡ 自力再建の可能性を高める内部人材の活用 ➡ 

解答例

➡︎ 赤字経営からの自力脱出が困難な状況にあり、大胆な事業改革が不可避な状況にあることから、事業の承継先には事業の現状と課題に精通している従業員などの内部人材や地元の同業他社が考えられる。その際の留意点は、①再建計画の構築に新旧オーナーの堅密な協力体制が不可欠であり、②精緻な実行計画や資金計画も必要となる。③現状の従業員を始め銀行等の取引先との良好な関係を再構築することも重要となる。(文字数:190)

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