中小企業診断士二次試験事例4(令和01)問3

与件文(問題文)はこちら

第3問(配点 30 点)

D 社は、マーケット事業部の損益改善に向けて、木材の質感を生かした音響関連の新製品の製造販売を計画中である。当該プロジェクトに関する資料は以下のとおりである。

<資料>大手音響メーカーから部品供給を受け、新規機械設備を利用して加工した木材にこの部品を取り付けることによって製品を製造する。

・ 新規機械設備の取得原価は 20 百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数 5 年、残存価値なし)。

・損益予測は以下のとおりである。

・ キャッシュフロー予測においては、全社的利益(課税所得)は十分にあるものとする。また、運転資本は僅少であるため無視する。なお、利益(課税所得)に対する税率は 30 % とする。

(設問 1 )各期のキャッシュフローを計算せよ。

解答上の留意点

(1)キャッシュフロー(=CF) ⇒ 本問では営業CFのこと

(2)営業CF=(売上 ー 費用)×(1ー税率)+ 非現金支出費用 …(イ)

現金の収支が与えられている場合の営業CF=(現金収入 ー 現金支出)×(1ー税率)+ 非現金支出費用 × 税率

※非現金支出費用=現金支出がない会計上の費用=減価償却費、特別償却費、廃棄損、除却損、売却損、評価損、引当金繰入額等

(3)「新規機械設備の取得原価は 20 百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数 5 年、残存価値なし)」

⇒ 減価償却費=取得原価は 20 百万円 × (1ー残存価値0%)÷ 耐用年数 5 年=4 百万円

(4)「全社的利益(課税所得)は十分にあるものとする」⇒ 全社的には黒字なので税引後利益を計算すること=第1期も税引後の金額を出す

(5)「運転資本は僅少であるため無視」⇒ 運転資本=「売上債権 + 棚卸資産―仕入債務」本問では不明なので無視

(6)「税率は 30 % 」

(7)明記されていないので、端数処理は行わない

解答の手順

(1)各期の税引前利益までは計算済みなので、本問では CF=税引前利益 ×(1ー0.3)+ 減価償却費

(2)解答

第1期 のCFは、 ー7百万円 ×( 1ー0.3)+ 4百万円 = ー4.9百万円 + 4百万円 = ー0.9百万円
第2期 のCFは、 3百万円 × (1ー0.3)+ 4百万円 = 2.1百万円 + 4百万円 = 6.1百万円
第3期 のCFは、 15百万円 ×(1ー0.3)+ 4百万円 = 10.5百万円 + 4百万円 = 14.5百万円
第4期 のCFは、 8百万円 ×(1ー0.3)+ 4百万円 = 5.6百万円 + 4 百万円= 9.6百万円
第5期 のCFは、 8百万円 ×(1ー0.3)+ 4百万円 = 5.6百万円 + 4百万円 = 9.6百万円

********************

(設問 2 )

当該プロジェクトについて、⒜回収期間と⒝正味現在価値を計算せよ。なお、資本コストは 5 %であり、利子率 5 %のときの現価係数は以下のとおりである。解答は小数点第 3 位を四捨五入すること。

解答上の留意点

(1)「当該プロジェクト」とは、設問的には「新規機械設備の取得原価は 20 百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数 5 年、残存価値なし)」のこと

(1)当該プロジェクトについて、⒜回収期間を計算 将来得られるCFを使って、投資額20百万円を何年で回収できるかという計算。任意の回収期限を下回る場合のみ投資

(2)当該プロジェクトについて、⒝正味現在価値を計算 ⇒ 将来得られるCFを現在価値に換算して、投資額を上回るかを計算。上回る場合にのみ投資

(3)資本コストは 5 %=現在価値に換算する際の割引率(現金は利息を生むので将来価値は上がり続けるという前提、すなわち将来価値を現在価値に置き換えると常に目減りしていくので、現在価値 ÷ 将来価値=現価係数で割引く、という考え方)

例えば現在の100万円が資本コスト5%なら、1年後の現在価値は100万円 ÷ 105万円(=現在の100万円の1年後の価値)= 0.95238…(=1年後の100万円の価値を現在の価値に換算した時の比率、すなわち現価係数)

(3)小数点第 3 位を四捨五入

(a)の解答の手順

(1)回収期間 =(回収完了年-1)+ 回収完了年の残り回収額÷回収完了年のキャッシュフロー

(2)回収完了年の求め方 = 投資額20百万円を超えるCFの期を求める
第1期終了時のCF累計額 = ー0.9百万円
第2期終了時のCF累計額 = ー0.9百万円 + 6.1百万円=5.2百万円
第3期終了時のCF累計額 = ー0.9 百万円 + 6.1百万円 + 14.5百万円 = 19.7百万円
第4期終了時のCF累計額 = ー0.9百万円 + 6.1百万円 + 14.5百万円 + 9.6百万円 = 29.3百万円 ⇒ 第4期中に投資額を回収できる
(3)(回収完了年-1)= (4年ー1)= 3年

(4)回収完了年の残り回収額 = 20百万円 ー 19.7百万円 = 0.3百万円

(5)回収期間=3年 +(0.3百万円 ÷ 9.6百万円)= 3年 + 0.031年…≒ 3.03年

********************

(b)の解答の手順

(1)正味現在価値 = 将来得られるキャッシュフローの現在価値の合計 ー 投資額

(2)将来得られるキャッシュフローの現在価値の求め方各期のCF × 現価係数

第1期CFの現在価値 = ー0.9百万円 × 0.952 = ー0.8568百万円
第2期CFの現在価値 = 6.1百万円 × 0.907 = 5.5327百万円
第3期CFの現在価値 = 14.5百万円 × 0.864 = 12.528百万円
第4期CFの現在価値 = 9.6百万円 × 0.823 = 7.9008百万円
第5期CFの現在価値 = 9.6百万円 × 0.784 = 7.5264百万円
(3)正味現在価値 = 各期CFの現在価値の合計 ー 投資額 = ー0.8568百万円 + 5.5327百万円 + 12.528百万円 + 7.9008百万円 + 7.5264百万円 ー 20百万円
= 12.6311百万円 ≒ 12.63百万円

********************

(設問 3 )

<資料>記載の機械設備に替えて、高性能な機械設備の導入により原材料費および労務費が削減されることによって新製品の収益性を向上させることができる。高性能な機械設備の取得原価は 30 百万円であり、定額法によって減価償却する(耐用年数 5 年、残存価値なし)。このとき、これによって原材料費と労務費の合計が何%削減される場合に、高性能の機械設備の導入が<資料>記載の機械設備より有利になるか、⒜欄に答えよ。⒝欄には計算過程を示すこと。なお、資本コストは5 %であり、利子率 5 %のときの現価係数は(設問 2 )記載のとおりである。解答は、%表示で小数点第 3 位を四捨五入すること。

解答上の留意点

(1)「高性能の機械設備の導入が<資料>記載の機械設備より有利になるか」 高性能の機械設備を導入した場合の正味現在価値 と設問2の正味現在価値の差額 > 0であれば有利

(2)「原材料費と労務費の合計が何%削減される場合に」が不明なので、 ⇒ α%とする

(3)「<資料>記載の機械設備に替えて、高性能な機械設備の導入」 ⇒ <資料>記載の機械設備の減価償却費が高性能な機械設備の減価償却費に置き換わる

(4)(2)と(3)から、高性能な機械設備の導入により ⇒ 「収支予測表」の原材料費と労務費と減価償却費欄の数字が変わることに注意

(5)「%表示で小数点第 3 位を四捨五入」

解答の手順

(1)高性能な機械設備の減価償却費 = 30百万円 ÷ 5年=6百万円 ⇒ 各期の高性能な機械設備と<資料>記載の機械設備の減価償却費の差額 = 6百万円 ー 4百万円 = 2百万円

(2)高性能な機械設備を導入した場合と<資料>記載の機械設備を導入した場合CFの差額 =(原材料費と労務費の削減額 ー 減価償却費の増加額)×(1 ー 実効税率)+ 減価償却費の増加額

(3)原材料費と労務費の削減率をαとすると、高性能な機械設備を導入した場合<資料>記載の機械設備を導入した場合各期のCFの差額は

第1期のCFの差額 =(16百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 11.2α百万円 + 0.6百万円
第2期のCFの差額 =(27百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 18.9α百万円 + 0.6百万円
第3期のCFの差額 =(32百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 22.4α百万円 + 0.6百万円
第4期のCFの差額 =(25百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 17.5α百万円 + 0.6百万円
第5期のCFの差額 =(16百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 11.2α百万円 + 0.6百万円

(4)高性能な機械設備を導入した場合<資料>記載の機械設備を導入した場合正味現在価値の差額 =(11.2α百万円 + 0.6百万円)× 0.952 +(18.9α百万円 + 0.6百万円)× 0.907 +(22.4α百万円 + 0.6百万円)× 0.864 +(17.5α百万円 + 0.6百万円)× 0.823 +(11.2α百万円 + 0.6百万円) × 0.784 ー(30百万円ー20百万円)= 70.3416α百万円 + 2.598百万円ー10百万円 > 0

(5)70.3416α百万円 + 2.598百万円ー10百万円 > 0 α > 0.10522…≒ 10.52 %

(6)⒜欄 10.52%

(7)⒝欄 原材料費と労務費の削減率をαとした場合の高性能な機械設備を導入した場合と<資料>記載の機械設備を導入した場合各期のCFの差額

第1期のCFの差額 =(16百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 11.2α百万円 + 0.6百万円
第2期のCFの差額 =(27百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 18.9α百万円 + 0.6百万円
第3期のCFの差額 =(32百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 22.4α百万円 + 0.6百万円
第4期のCFの差額 =(25百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 17.5α百万円 + 0.6百万円
第5期のCFの差額 =(16百万円 × αー2百万円)×(1ー0.3)+ 2 百万円 = 11.2α百万円 + 0.6百万円

高性能な機械設備を導入した場合と<資料>記載の機械設備を導入した場合の正味現在価値の差額

(11.2α百万円 + 0.6百万円)× 0.952 +(18.9α百万円 + 0.6百万円)× 0.907 +(22.4α百万円 + 0.6百万円)× 0.864 +(17.5α百万円 + 0.6百万円)× 0.823 +(11.2α百万円 + 0.6百万円) × 0.784 ー(30百万円ー20百万円)= 70.3416α百万円 + 2.598百万円ー10百万円 > 0

この場合のαを求めると

70.3416α百万円 + 2.598百万円ー10百万円 > 0

α > 0.10522…≒ 10.52 %

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