中小企業診断士二次試験事例1(平成30・解答手順)

手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでA社の業種を確認 0.5分

一行目冒頭に「A 社は、資本金 2,500 万円、売上約 12 億円のエレクトロニクス・メーカー」とある。

手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入 10分

手順5:与件文を読み、各設問の解答として引用する箇所に設問と同じ色のアンダーライン 10分

与件文

A 社は、資本金 2,500 万円、売上約 12 億円のエレクトロニクス・メーカーである。役員 5 名を除く従業員数は約 50 名で、そのほとんどが正規社員である。代表取締役は、1970 年代後半に同社を立ち上げた A 社長である。現在の A 社は電子機器開発に特化し、基本的に生産を他社に委託し、販売も信頼できる複数のパートナー企業に委託している、研究開発中心の企業Sである。この 10 年間は売上のおよそ 6 割を、複写機の再生品や複合機内部の部品、複写機用トナーなどの消耗品が占めている。そして、残りの 4 割を、同社が受託し独自で開発している食用肉のトレーサビリティー装置、業務用 LED 照明、追尾型太陽光発電システムなど、電子機器の部品から完成品に至る多様で幅広い製品が占めている。

大手コンデンサーメーカーの技術者として経験を積んだ後、農業を主産業とする故郷に戻った A 社長は、近隣に進出していた国内大手電子メーカー向けの特注電子機器メーカー A 社を創業した。その後、同社のコアテクノロジーであるセンサー技術が評価されるようになると、主力取引先以外の大手・中堅メーカーとの共同プロジェクトへの参画が増えたSこともあって、気象衛星画像データの受信機や、カメラ一体型のイメージセンサーやコントローラーなど高精度の製品開発にも取り組むことになった。もっとも、当時は売上の 8 割近くを主力取引先向け電子機器製造に依存Wしていた。

しかし、順調に拡大してきた国内大手電子メーカーの特注電子機器事業が、1990年代初頭のバブル経済の崩壊によって急激な事業縮小を迫られると、A 社の売上も大幅に落ち込んだ。経営を足元から揺るがされることになった A 社は、農産物や加工食品などの検品装置や、発電効率を高める太陽光発電システムなど、自社技術を応用した様々な新製品開発にチャレンジせざるを得ない状況に追い込まれた。W

平成不況が長引く中で、A 社は存続をかけて、ニッチ市場に向けた製品を試行錯誤を重ねながら開発し、事業を継続してきた。もちろん開発した製品すべてが市場で受け入れられるわけもなく、継続的に安定した収入源として A 社の事業の柱となる製品を生み出すこともかなわなかったW。そうした危機的状況が、A 社長の製品開発に対する考え方を一変させることになる。開発した製品を販売した時点で取引が完了する売切り型の事業の限界を打ち破ることを目標にして、新規事業開発に取り組んだのである。それが、複写機関連製品事業である。

大口顧客は事務機器を販売していたフランチャイズ・チェーンであり、2000 年代後半のリーマン・ショックに至る回復基調の景気を追い風にして A 社の業績も伸長した。ところが、リーマン・ショックによって急速に市場が縮小し始めると、A 社の売上も頭打ちになった。同業者の多くがこの市場から撤退する中で、A 社はシェアこそ拡大させたが、もはや、その後の売上の拡大を期待することのできる状況ではなかった。

ところが、A 社がこの事業に参入した頃から、情報通信技術の急速な進歩に伴って、事務機器市場が大きく変化してきた。そのことを予測していたからこそ、A 社長は、後進に事業を委ねる条件が整うまで自らが先頭に立って、新規事業や製品の開発にチャレンジし続けているのである。

これまで幾度かの浮き沈みを経験してきた同社であるが、営業職や事務職、人事・経理・総務などの管理業務を兼務している者を加えた約 50 名の社員のうち、技術者が 9 割近くを占めている。創業以来変わることなく社員の大半は技術者であるが、売上が数十倍になった今日に至っても従業員数は倍増程度にとどまっている。

従前 A 社では、電子回路技術部門、精密機械技術部門、ソフトウェア技術部門と専門知識別に部門化されていた。しかし、複写機関連製品事業が先細り傾向になった頃から、製品開発部門、品質管理部門、生産技術部門に編成替えをし、各部門を統括する部門長を役員が兼任した。製品開発部門は、環境エネルギー事業の開発を推進するグループ、法人顧客向けの精密機械を開発するグループ、LED 照明関連製品を開発するグループに分けられ、電子回路技術、精密機械技術、ソフトウェア技術などの専門知識を有する技術者をほぼ同数配置した混成チームとした。品質管理部門と生産技術部門には、数名の技術者が配属され、製品開発部門の業務をサポートすると同時に、複数の生産委託先との調整業務を担っている。

従前 A 社では、電子回路技術部門、精密機械技術部門、ソフトウェア技術部門と専門知識別に部門化されていた。しかし、複写機関連製品事業が先細り傾向になった頃から、製品開発部門、品質管理部門、生産技術部門に編成替えをし、各部門を統括する部門長を役員が兼任した。製品開発部門は、環境エネルギー事業の開発を推進するグループ、法人顧客向けの精密機械を開発するグループ、LED 照明関連製品を開発するグループに分けられ、電子回路技術、精密機械技術、ソフトウェア技術などの専門知識を有する技術者をほぼ同数配置した混成チームとした。品質管理部門と生産技術部門には、数名の技術者が配属され、製品開発部門の業務をサポートすると同時に、複数の生産委託先との調整業務を担っている。

絶えず新しい技術を取り込みながら製品領域の拡大を志向してきた A 社にとって、人材は重要な経営資源であり、それを支えているのが同社の人事制度である。

その特徴の一つは、戦力である技術者に新卒者を原則採用せず、地元出身の Uターン組や I ターン組の中途採用者だけに絞っていることである。また、賃金は、設立当初から基本的に年功給の割合をできるだけ少なくして、個人業績は年二回の賞与に多く反映させるようにしてきた。近年、いっそう成果部分を重視するようになり、年収ベースで二倍近くの差が生じることもある。それにもかかわらず、A 社の離職率が地元の同業他社に比べて低いことは、実力主義が A 社の文化として根付いていることの証左である。とはいえ、その一方で家族主義的な面も多くみられる。社員持株制度や社員全員による海外旅行などの福利厚生施策を充実させているし、1990 年代半ばには、技術者による申請特許に基づく装置が売れると、それを表彰して売上の1 %を報奨金として技術者が受け取ることができる制度を整備し運用している。

このように、A 社は、研究開発型企業として、取引先や顧客などの声を反映させていた受け身の製品開発の時代から、時流を先読みし先進的な事業展開を進める一方で、伝統的な家族主義的要素をも取り入れて成長を実現している企業だといえる。

手順2:各設問文を読んで解答に必要な5W2Hを確認しアンダーライン 4.5分

手順4:各設問文を読んで、与件文から解答を探さしの手掛かりになる文言箇所にアンダーライン(設問別に色分け) 5分

手順6:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 5分

各設問に関連性はなさそう。設問の難易度は知識不足で判断できず。よって解答は順序よく行うことにした。

第1問(配点 20 点)

研究開発型企業である A 社が、相対的に規模の小さな市場をターゲットとしているのはなぜか。その理由を、競争戦略の視点から 100 字以内で答えよ。

ニッチ市場を標的にするA社の理由

解答すべき事項の洗い出し

➡ ③「しかし、順調に拡大してきた国内大手電子メーカーの特注電子機器事業が、1990年代初頭のバブル経済の崩壊によって急激な事業縮小を迫られると、A 社の売上も大幅に落ち込んだ。経営を足元から揺るがされることになった A 社は、農産物や加工食品などの検品装置や、発電効率を高める太陽光発電システムなど、自社技術を応用した様々な新製品開発にチャレンジせざるを得ない状況に追い込まれた。」➡ 依存からの脱却に迫られた

➡ ④「平成不況が長引く中で、A 社は存続をかけて、ニッチ市場に向けた製品を試行錯誤を重ねながら開発し、事業を継続してきた。もちろん開発した製品すべてが市場で受け入れられるわけもなく、継続的に安定した収入源として A 社の事業の柱となる製品を生み出すこともかなわなかったW。そうした危機的状況が、A 社長の製品開発に対する考え方を一変させることになる。開発した製品を販売した時点で取引が完了する売切り型の事業の限界を打ち破ることを目標にして、新規事業開発に取り組んだのである。それが、複写機関連製品事業である。」➡ 製造販売力が無いので、開発力だけで差別化を図りやすいニッチ市場で大手との競争を避けて生き残る

解答

➡ 大手との競争を回避することで事業の継続を確保するためである。大手が参入し辛いニッチ市場なら、自前の製造販売力を持たなくても、研究開発力だけで事業の差別化と競争優位性を得られると考えた。(文字数:92)

第2問(配点 40 点)

A 社の事業展開について、以下の設問に答えよ。

(設問1)

A 社は創業以来、最終消費者に向けた製品開発にあまり力点を置いてこなかった。A 社の人員構成から考えて、その理由を 100 字以内で答えよ。

最終消費者向け製品開発に消極的な人事構成面からの理由

解答すべき事項の洗い出し

➡ ①「A 社は電子機器開発に特化し、基本的に生産を他社に委託し、販売も信頼できる複数のパートナー企業に委託している、研究開発中心の企業Sである。この 10 年間は売上のおよそ 6 割を、複写機の再生品や複合機内部の部品、複写機用トナーなどの消耗品が占めている。そして、残りの 4 割を、同社が受託し独自で開発している食用肉のトレーサビリティー装置、業務用 LED 照明、追尾型太陽光発電システムなど、電子機器の部品から完成品に至る多様で幅広い製品が占めている。」➡ 研究開発中心の企業 ➡ 電子機器製品の機能改善が得意 ➡ BtoC取引経験に乏しい

解答

➡ 製造販売部門を持たず研究開発に特化した人員構成であるため、自社の強みが活かされないと判断したから。大手の参入も予想される最終消費者向け市場では、製造販売両面でも競争優位を確立できる組織力が必要と考えた。(文字数:101≒100)

(設問2)

A 社長は経営危機に直面した時に、それまでとは異なる考え方に立って、複写機関連製品事業に着手した。それ以前に同社が開発してきた製品の事業特性と、複写機関連製品の事業特性には、どのような違いがあるか。100 字以内で答えよ。

経営危機に直面して始めた複写機関連製品と従前製品の事業特性の違い

解答すべき事項の洗い出し

➡ ③「しかし、順調に拡大してきた国内大手電子メーカーの特注電子機器事業が、1990年代初頭のバブル経済の崩壊によって急激な事業縮小を迫られると、A 社の売上も大幅に落ち込んだ。経営を足元から揺るがされることになった A 社は、農産物や加工食品などの検品装置や、発電効率を高める太陽光発電システムなど、自社技術を応用した様々な新製品開発にチャレンジせざるを得ない状況に追い込まれた。」➡ 依存からの脱却に迫られた

➡ ④「平成不況が長引く中で、A 社は存続をかけて、ニッチ市場に向けた製品を試行錯誤を重ねながら開発し、事業を継続してきた。もちろん開発した製品すべてが市場で受け入れられるわけもなく、継続的に安定した収入源として A 社の事業の柱となる製品を生み出すこともかなわなかったW。そうした危機的状況が、A 社長の製品開発に対する考え方を一変させることになる。開発した製品を販売した時点で取引が完了する売切り型の事業の限界を打ち破ることを目標にして、新規事業開発に取り組んだのである。それが、複写機関連製品事業である。」➡ 売上が長く続かないから長期の売上が見込める ➡ 不安定な収入から安定収入へ ➡ メーカーとの取引から最終消費者との取引

解答

➡ ①契約の相手方がメーカーか最終消費者か、②取引が単発的か反復的か、③収入が長期間安定的に見込めるか否か、が従前製品との違いである。A社長は、複写機関連製品の持つ事業特性で安定経営の実現を考えた。(文字数:97)

第3問(配点 20 点)

A 社の組織改編にはどのような目的があったか。100 字以内で答えよ。

改変内容から見える目的

解答すべき事項の洗い出し

➡ ⑥「ところが、A 社がこの事業に参入した頃から、情報通信技術の急速な進歩に伴って、事務機器市場が大きく変化してきた。そのことを予測していたからこそ、A 社長は、後進に事業を委ねる条件が整うまで自らが先頭に立って、新規事業や製品の開発にチャレンジし続けているのである。」➡ 後進に事業を委ねるため ➡ 新規事業や製品開発に挑戦する組織であり続ける

➡ ⑧「従前 A 社では、電子回路技術部門、精密機械技術部門、ソフトウェア技術部門と専門知識別に部門化されていた。しかし、複写機関連製品事業が先細り傾向になった頃から、製品開発部門、品質管理部門、生産技術部門に編成替えをし、各部門を統括する部門長を役員が兼任した。製品開発部門は、環境エネルギー事業の開発を推進するグループ、法人顧客向けの精密機械を開発するグループ、LED 照明関連製品を開発するグループに分けられ、電子回路技術、精密機械技術、ソフトウェア技術などの専門知識を有する技術者をほぼ同数配置した混成チームとした。品質管理部門と生産技術部門には、数名の技術者が配属され、製品開発部門の業務をサポートすると同時に、複数の生産委託先との調整業務を担っている。」➡ 専門知識別部門から機能別製品別部門に組織改編 ➡ 新規事業や新製品開発に挑戦し続ける組織づくり ➡ 権限委譲による挑戦への後押しで人材育成・後継者育成

解答

➡ 新規事業や新製品開発を実現できる持続的技術力強化が目的である。部門間で技術と情報の共有を徹底し、製品部門間では競争と協力の相乗効果で技術力と指導力を養える組織づくりを目指した。(文字数:88)

第4問(配点 20 点)

A 社が、社員のチャレンジ精神や独創性を維持していくために、金銭的・物理的インセンティブの提供以外に、どのようなことに取り組むべきか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ。

やる気と創造力の持続力を養う人事制度

解答すべき事項の洗い出し

➡ ⑩「その特徴の一つは、戦力である技術者に新卒者を原則採用せず、地元出身の Uターン組や I ターン組の中途採用者だけに絞っていることである。また、賃金は、設立当初から基本的に年功給の割合をできるだけ少なくして、個人業績は年二回の賞与に多く反映させるようにしてきた。近年、いっそう成果部分を重視するようになり、年収ベースで二倍近くの差が生じることもある。それにもかかわらず、A 社の離職率が地元の同業他社に比べて低いことは、実力主義が A 社の文化として根付いていることの証左である。とはいえ、その一方で家族主義的な面も多くみられる。社員持株制度や社員全員による海外旅行などの福利厚生施策を充実させているし、1990 年代半ばには、技術者による申請特許に基づく装置が売れると、それを表彰して売上の1 %を報奨金として技術者が受け取ることができる制度を整備し運用している。」➡ ⑩以外を記述 ➡ 非金銭的・非物理的インセンティブの提供か? ➡ 知識問題

解答

➡ 社員間で技術力と情報の共有を図ることで連帯意識を高め、担当業務以外の新規事業や新製品開発にもアイデアを提供し参画できる仕組みをつくる。また、全員が各人のアイデアを評価し合える透明性のある仕組みも必要。(文字数:100)

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