中小企業診断士二次試験事例4(平成30・解答手順)

2023.09.02更新

手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでD社の業種を確認 0.5分

1行目冒頭に「D社は資本金5,000万円、従業員55名、売上高約15億円の倉庫・輸送および不動産関連のサービス業を営んでおり、ハウスメーカーおよび不動産流通会社、ならびに不動産管理会社およびマンスリーマンション運営会社のサポートを事業内容としている。」とある。

手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入 3.5分

与件文

D社は資本金5,000万円、従業員55名、売上高約15億円の倉庫・輸送および不動産関連のサービス業を営んでおり、ハウスメーカーおよび不動産流通会社、ならびに不動産管理会社およびマンスリーマンション運営会社のサポートを事業内容としている。同社は、顧客企業から受けた要望に応えるための現場における工夫をブラッシュアップし、全社的に共有して一つ一つ事業化を図ってきた。S

D社は、主に陸上貨物輸送業を営むE社の引越業務の地域拠点として1990年代半ばに設立されたが、新たなビジネスモデルで採算の改善を図るために、2年前に家具・インテリア商材・オフィス什器等の大型品を二人一組で配送し、開梱・組み立て・設置までを全国で行う配送ネットワークを構築した。

同社は、ハウスメーカーが新築物件と併せて販売するそれらの大型品を一度一カ所に集め、このネットワークにより一括配送するインテリアのトータルサポート事業を開始し、サービスを全国から受注している。その後、E社の子会社F社を吸収合併することにより、インテリアコーディネート、カーテンやブラインドのメンテナンス、インテリア素材調達のサービス業務が事業に加わった

さらに、同社は、E社から事業を譲り受けることにより不動産管理会社等のサポート事業を承継し、マンスリーマンションのサポート、建物の定期巡回やレンタルコンテナ点検のサービスを提供している。定期巡回や点検サービスは、不動産巡回点検用の報告システムを活用することで同社の拠点がない地域でも受託可能であり、全国の建物を対象とすることができる。

D社は受注した業務について、協力個人事業主等に業務委託を行うとともに、配送ネットワークに加盟した物流業者に梱包、発送等の業務や顧客への受け渡し、代金回収業務等を委託しており、協力個人事業主等の確保・育成および加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握・向上がビジネスを展開するうえで重要な要素になっている。

また、D社は顧客企業からの要望に十分対応するために配送ネットワークの強化とともに、協力個人事業主等ならびに自社の支店・営業所の拡大が必要と考えている。同社の事業は労働集約的であることから、昨今の人手不足の状況下で、同社は事業計画に合わせて優秀な人材の採用および社員の教育にも注力する方針である。

D社と同業他社の今年度の財務諸表は以下のとおりである。

手順2:各設問文を読んで、何を答えればいいのかを把握 ⇒1.5分

手順4:各設問文を読んで、与件文の関連箇所の行番号とキーワードをわかる範囲で書き出し ⇒3分

手順5:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 0.5分

問1は定番の経営分析

問2も定番のCFと企業価値

問3は損益の予測と投資

問4は業務委託と事業展開

第1問(配点 24 点)


(設問 1 )
D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を⒜欄に、その値を⒝欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、課題を示すと考えられる指標を②、③の欄に記入し、⒝欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。

手順2、4の実施結果

与件文で指標の見当をつけて、指標名を書き出す。

指標の選択と値の計算

➡ 与件文から読み取れないので、値の比較で当たりをつける ➡ D社売上高:同業他社売上高=1503:1815≒1:1.2 「加工コスト削減」➡ 売上高の比がD社:同業他社=1:0.7 ➡ 売上原価は1:0.64なので同業他社より売上原価が高い ➡ D社の売上高総利益率=484÷3810×100%≒12.70%(同業他社は20.22%)➡ 利益率が同業他社より低いので課題

➡ 販管費が同業他社の3倍弱 ➡ 売上高営業利益率1.1976…%:3.2506…% ➡ 業務委託料が過大? ➡ 収益性に課題

➡ 有形固定資産が同業他社の2倍強 ➡ 有形固定資産回転率17.0795…回:42.2093…回 ➡ 全国展開が多い理由か? ➡ 効率性に課題

➡ 資本剰余金が同業他社の38倍もあるが吸収合併が理由か? ➡ 自己資本比率35.5864…%:11.5259…% ➡ 資本構造の安全性に優れている

解答例

➡︎ ①(a)自己資本比率 (b)35.59%  ②(a)売上高営業利益率 (b)1.20%  ③(a)有形固定資産回転率(b)17.08回


(設問 2 )
D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較してD社が優れている点とD社の課題を50字以内で述べよ。

解答例

➡︎ 資本剰余金が多く資本構造の安定性に優れているが、有形固定資産と営業費用に見合った売上の確保が課題。(文字数:49)

第2問(配点 31 点)


D社は今年度の初めにF社を吸収合併し、インテリアのトータルサポート事業のサービスを拡充した。今年度の実績から、この吸収合併の効果を評価することになった。以下の設問に答えよ。なお、利益に対する税率は30%である。

手順2、4の実施結果

➡ 吸収合併の効果を評価?状態

(設問 1 )
吸収合併によってD社が取得したF社の資産及び負債は次のとおりであった。

今年度の財務諸表をもとに①加重平均資本コスト(WACC)と、②吸収合併により増加した資産に対して要求されるキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を⒜欄に、計算過程を⒝欄に記入せよ。なお、株主資本に対する資本コストは 8 %、負債に対する資本コストは1%とする。また、⒜欄の値については小数点第 3 位を四捨五入すること。

WACCの計算

➡① WACC=資本÷(負債+資本)×資本コスト(%)+負債÷(負債+資本)×負債に対する資本コスト(%)×(1-税率) ➡ 179÷(324+179)×8%+324÷(324+179)×1×(1-0.3)=2.8469…+0.4508…=3.2978…≒3.30%

➡② F社資産に要求されるCF=F社の資産190×0.033=6.27百万円

解答例

➡︎ 上記参照

(設問 2 )
インテリアのトータルサポート事業のうち、吸収合併により拡充されたサービスの営業損益に関する現金収支と非資金費用は次のとおりであった。

企業価値の増減を示すために、吸収合併により増加したキャッシュフロー(単位: 百万円)を求め、その値を⒜欄に、計算過程を⒝欄に記入せよ。⒜欄の値については小数点第3位を四捨五入すること。また、吸収合併によるインテリアのトータルサポート事業のサービス拡充が企業価値の向上につながったかについて、(設問1)で求めた値も用いて理由を示して⒞欄に70字以内で述べよ。なお、運転資本の増減は考慮しない。

CFの計算

➡ CF=(収入400-支出395-非資金費用1)×(1-0.3)+1=3.80百万円

値と理由を示して企業価値の向上の有無を述べる

➡ F社資産に要求されるキャッシュフローは6.27百万円なのに対し、増加したキャッシュフローは3.80百万円なので、企業価値の向上につながっていない。(文字数:73≒69)※数字は2文字で1文字換算

解答例

➡︎ 上記参照

(設問 3 )
(設問2)で求めたキャッシュフローが将来にわたって一定率で成長するものとする。その場合、キャッシュフローの現在価値合計が吸収合併により増加した資産の金額に一致するのは、キャッシュフローが毎年度何パーセント成長するときか。キャッシュフローの成長率を⒜欄に、計算過程を⒝欄に記入せよ。なお、⒜欄の成長率については小数点第3位を四捨五入すること。

CFの計算

➡ 配当割引モデルの一定成長モデルの公式から、割引率3.30%=(1年後のCF3.8百万円÷資産190百万円)+成長率g ➡ g=0.033-0.02=0.013=1.30%

➡ 公式を知らない場合の考え方 ➡ 配当利回り3.3%、6.27百万円を期待 ➡ 実際の配当率は2%(1年後の実際の配当3.8百万円÷資産190百万円)➡ 足りない2.47百万円(6.27-3.8)、1.3%(0.033-0.02)を別途補填?

第3問(配点 30 点)

D社は営業拠点として、地方別に計3カ所の支店または営業所を中核となる大都市に開設している。広域にビジネスを展開している多くの顧客企業による業務委託の要望に応えるために、D社はこれまで営業拠点がない地方に営業所を1カ所新たに開設する予定である。

今年度の売上原価と販売費及び一般管理費の内訳は次のとおりである。以下の設問に答えよ。

手順2、4の実施結果

➡ CVPはいつも求め方に落とし穴があるので難しそうなら後回し

(設問 1 )
 来年度は外注費が7%上昇すると予測される。また、営業所の開設により売上高が550百万円、固定費が34百万円増加すると予測される。その他の事項に関しては、今年度と同様であるとする。

予測される以下の数値を求め、その値を⒜欄に、計算過程を⒝欄に記入せよ。

変動費率(小数点第3位を四捨五入すること)

営業利益(百万円未満を四捨五入すること)

①変動費率の計算

➡ 売上高=1503+550=2053 ➡ 変動費=1047+782×7%=1101.74 ➡ 固定費=438+34

➡ 変動費率=1101.74÷1503×100%≒73.30% 

➡ 営業利益=2053-2053×0.733ー472=76.151≒76百万円

解答例

➡︎ 上記参照

(設問 2 )
D社が新たに営業拠点を開設する際の固定資産への投資規模と費用構造の特徴について、60字以内で説明せよ。

解答例

➡︎ 固定資産への投資規模は比較的小さく変動費型の費用構造であるため、売上が見込みどおりなら継続的に安定した利益が得られる。(文字数:59)

(設問 3 )
(設問2)の特徴を有する営業拠点の開設がD社の成長性に及ぼす当面の影響、および営業拠点のさらなる開設と成長性の将来的な見通しについて、60字以内で説明せよ。

解答例

➡︎ 営業量の増加に反比例して限界利益率が減少していくため、拠点の拡大効果だけでは当面の安定した利益を維持し続けるのは困難にある。(文字数:61≒60)

第4問(配点 15 点)

D社が受注したサポート業務にあたる際に業務委託を行うことについて、同社の事業展開や業績に悪影響を及ぼす可能性があるのはどのような場合か。また、それを防ぐにはどのような方策が考えられるか。70字以内で説明せよ。

解答例

➡︎ 人手不足でサービスの質と量を充分確保できない場合が考えられる。対策は、優秀な人材を内部で採用育成して変動費の固定費化を図ることである。(文字数:67)

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