中小企業診断士二次試験事例1(平成26・解答手順)

与件文

手順1:行番号を記入し、与件文の冒頭を読んでA社の業種を確認 0.5分

一行目冒頭に「A 社は、資本金 2,000 万円、売上高約 3 億 5 千万円、従業員数 40 名(正規社員 25名、非正規社員 15 名)の精密ガラス加工メーカー」とある。

手順3:与件文を読んで、段落単位でSWOT分析をして「S」「W」「O」「T」を該当箇所にアンダーラインをしながら記入 10分

手順5:与件文を読み、各設問の解答として引用する箇所に設問と同じ色のアンダーライン 10分

A 社は、資本金 2,000 万円、売上高約 3 億 5 千万円、従業員数 40 名(正規社員 25名、非正規社員 15 名)の精密ガラス加工メーカーである。1970 年代半ばの創業から今日に至るまで、A 社社長が代表取締役として陣頭指揮をとっている。現在、A 社の取り扱っている主力製品は、試薬検査などに使用する理化学分析用試験管、医療機関などで使用されているレーザー装置、光ファイバーなどに用いるガラス管などである。売上のおよそ半分を OEM 生産の理化学分析用試験管事業が占め、あとの半分をレーザー装置事業とガラス管事業でそれぞれ同程度を売り上げている

現在、A 社の組織は、生産、研究開発を中心にした機能別組織である。営業担当者は 1 名で、取引先との窓口業務にあたっている研究開発部門には、研究室と開発室に計 6 名の社員が所属しており、工学博士号をもつ社員もいる研究開発部門は、新製品開発や新技術開発のほか、製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売を担当している。生産部門は、製造第 1 課、第 2 課、品質管理課の 3 つの課で構成されている。第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。そして、人事・経理などを総務部が担当している。

A 社が開発・製造している製品に関連する精密ガラス加工技術とは、われわれが通常イメージするようなグラスや置物、工芸品を製造する職人的な工芸技術ではなく、絶縁性、透過性、外圧の統制などガラスの持つ特性を最大限活用する高度な加工技術である。かつてテレビに使われていたブラウン管や真空管、放電管なども、精密ガラス加工技術をベースにした関連製品である。

真空成形加工、特殊ランプ加工、ガス加工、延伸加工などの精密ガラス加工技術を用した A 社が取り扱う製品の開発・製造には、ガラス加工技術の知識や熟練技能だけでなく、物理学や化学に関する専門的な知識も不可欠である。A 社社長が精密ガラス加工に必要な基礎技術や知識を習得し会社を立ち上げることができたのは、高校卒業後に 10 年ほど中堅ガラス加工メーカーに勤務し、そこで大手電機メーカーの研究所や大学の研究機関との共同開発のプロジェクトに深くかかわってきたからである。その時に培った人間関係や研究開発に関する技術や経験が、創業から今日に至るまで、A 社の経営基盤を成しているS

精密ガラス加工技術を必要とする製品分野は、技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い。そのため、サプライヤーは、新しい技術や新しい製品を取引先に提案することができなければ取引を継続させていくことは難しい

小さな工場を借り、サラリーマン時代の人間関係を通じて、大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす体制でスタートした A 社も、取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現してきたのである。その成長スピードは決して速いとはいえないが、精密ガラス加工技術の関連技術を広げながら、今日の研究開発型企業へと発展を遂げてきたS

創業から 10 年余り、依頼に応じて開発・製造した製品の多くは、技術革新や代替品の登場によって 2 〜 3 年で注文がなくなり、なかなか主力製品に育たなかったW

A 社にとって成長に向けた最初のターニング・ポイントは、レーザー用放電管の開発であった。大学や大手企業の研究機関から依頼を受けて開発・製造に取り組んできたそれまでの製品とは異なって、A 社社長のアイデアではじめて自社開発に着手したレーザー用放電管事業はひとつの柱となった。その後 10 年の時を経て、レーザー用放電管事業はレーザー装置そのものの製品化にもつながり、売上は大きく伸張することになるS

もうひとつのターニング・ポイントは、レーザー用放電管開発と前後して、現在の主力製品となる理化学分析用試験管の OEM 生産を化学用分析機器メーカーから依頼されたことであった。もっとも、この事業が A 社の利益に大きく貢献するようになったのは、5 年ほど前からである。というのも、製造依頼があった当初、分析用試験管の市場規模はまだ小さく、生産量も少なかったし、製造プロセスの多くが手作業であったことに加えて外注した製造設備を使っていたために、良品率が 40 %以下と著しく低かったためである。その後、試験管の需要増に伴って受注量も増えて A 社の売上は少しずつ伸張したが、良品率が低く利益増にはなかなか結びつかなかった。試験管市場の成長を確信していた A 社社長は、そうした事態を打破するために製造設備の内製化を決意し、段階的に製造設備の改良・開発に取り組み始めた。着手から 5年以上の年月がかかったものの製造設備の内製化を進めたことによって、製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は 60 %程度まで改善した。その後、理化学分析用試験管の品質も向上し、よりコンパクトになったにもかかわらず、良品率 60 %前後を維持してきた。ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は 90 %を超えるまでに向上している。

これらのターニング・ポイントを経る中で、A 社社長は、以前にも増して、研究開発力の強化なくして事業の成長も存続も望めないことを痛感するようになった。それまでも、社内で解決できない技術的な問題や、新製品や新規技術に関連する問題が生じた場合には、顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者からアドバイスを受けてきた工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。その成果こそいまだ未知数であるが、精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。さらに、近年、新たに大学院卒の博士号取得見込者を採用し、研究開発力強化に積極的に取り組んでいる

とはいえ、A 社のような売上も利益も少ない規模の小さな中小企業が研究開発型企業として生き残るためには、必要な研究開発費を捻出することがもうひとつの重要な経営課題である。レーザー用放電管の自主開発に取り組んだ時代の A 社の売上高は 1 億円にも満たず、社員数も 10 名に過ぎなかった。そのような企業規模で新規事業のための多額の研究開発資金を捻出することは難しかった。A 社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。研究開発型中小企業にとって、官公庁の助成金の獲得は極めて重要な資金調達の手段なのである。

手順2:各設問文を読んで題意を確認しアンダーライン 4.5分

手順4:各設問文を読んで、与件文から解答を探さしの手掛かりになる文言箇所にアンダーライン(設問別に色分け) 5分

手順6:難易度の確認と関連する設問同士の関係性を確認して解答順序を決める 5分

難易度が不明なため、第1問から解答した。

第1問(配点20点)

A 社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120 字以内で答えよ。

解答すべき事項の洗い出し

題意 ➡ 大学や企業との共同開発で得た独創的技術で事業する小規模企業が増える「背景(=経営環境の変化)」

➡ 与件文⑪「公的助成金制度が活用できる」 ➡ 小規模事業者でも大学や企業との共同開発がしやすくなった

➡ 与件文⑦のW ➡ 独創的技術の得やすさが技術革新や代替品の登場を早め、市場の競争激化を生んだ」

解答

➡ 技術革新の速さと製品ライフサイクルの短縮化が進む市場で、公的支援を受けて大学や企業との共同開発で独自技術を獲得し参入してくる研究開発型中小企業の増加が、市場の拡張と激化に拍車をかけている背景がある。(文字数:99)

第2問(配点20点)

A 社は、創業期、大学や企業の研究機関の依頼に応じて製品を提供してきた。しかし、当時の製品の多くが A 社の主力製品に育たなかったのは、精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外に、どのような理由が考えられるか。100 字以内で答えよ。

解答すべき事項の洗い出し

題意 ➡ A社に主力製品が無い理由(製品ライフサイクル以外の理由)

➡ 与件文⑥「頼まれる単発的な仕事」、⑦「依頼に応じて開発・製造」➡⑥「取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現➡⑦「技術革新や代替品の登場」で短命化し主力製品にできず ➡ 模倣困難性による差別化で競争優位を築けなかった 

解答

➡ 依頼に応じて開発・製造し、取引先の要望を超えるアイデアの提供で存続と成長を実現してきたため、模倣困難性等で競争優位性を築く方策や組織体制構築の取り組みが不充分だったことが考えられる。(文字数:91)

第3問(配点20点)

2 度のターニング・ポイントを経て、A 社は安定的成長を確保することができるようになった。新しい事業の柱ができた結果、A 社にとって組織管理上の新たな課題が生じた。それは、どのような課題であると考えられるか。100 字以内で答えよ。

解答すべき事項の洗い出し

題意 ➡ 安定成長期に入った組織の管理上の課題(安定前の組織と比較?)

➡ 与件文②の「第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長」➡ ⑧のS「A 社社長のアイデアではじめて自社開発に着手したレーザー用放電管事業はひとつの柱となった」➡ ⑩「工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するため」➡ ⑩「社内で解決できない技術的な問題や、新製品や新規技術に関連する問題が生じた場合には、顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者からアドバイスを受けてきた」  5段階企業成長モデル

解答

➡ 研究能力開発の強化と新たな事業分野を開拓すべく、所管部門責任者への適切な権限移譲が課題となる。具体的には、高度人材である課長に権限と責任を適宜移管できる組織的支援や外部連携強化の体制づくりがある。(文字数:98)

第4問(配点20 点)

A 社の主力製品である試験管の良品率は、製造設備を内製化した後、60 %まで改善したが、その後しばらく大幅な改善は見られず横ばいで推移した。ところが近年、良品率が 60 %から 90 %へと大幅に改善している。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。

解答すべき事項の洗い出し

題意 ➡ 良品率60%達成後、何が要因で90%達成

➡ 与件文②「第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長」➡ ⑨の「製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は 60 %程度まで改善した」、「ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げた」➡ 高度人材に権限と責任を持たせたことで製造設備の改良・開発が一段と進み、製造プロセスの高度化が促進されたことが考えられる。

解答

➡ 中途採用の高度人材を昇進させ権限と責任を持たせたことで課題への取組み意欲の向上と能力発揮の場が広がり、その結果として製造設備の改良・開発が一段と進み、製造プロセスの高度化が促進されたことが考えられる。(文字数:100)

第5問(配点20 点)

A 社は、若干名の博士号取得者や博士号取得見込者を採用している。採用した高度な専門知識をもつ人材を長期的に勤務させていくためには、どのような管理施策をとるべきか。中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。

解答すべき事項の洗い出し

題意 ➡ 高度人材の長期活用の阻害要因の「解消(=管理施策)」

➡ 高度人材の改善・開発意欲と知的好奇心を満足させるための長期的管理施策が必要である。具体的には、自由裁量を最大限与えて外部組織との連携や新技術や新製品開発を行わせ、人事評価や人材育成を長期スパンで実施する。

解答

➡ 自社製品の改善・開発意欲と探求心を満足させる長期的管理施策が必要である。具体的には、自由裁量を最大限与えて外部組織との連携や新技術や新製品開発を行わせ、人事評価や人材育成を長期スパンで実施する。(文字数:97)

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